漢詩と和歌

温庭筠の詩「蓮花」に思う

蓮花 温庭筠 〔唐代〕 緑塘揺滟接星津,軋軋蘭桡入白蘋。 応為洛神波上襪,至今蓮蕊有香塵。 緑色に染まった池の水に燦めく銀河が映り込んでいる。小舟の櫂がガタガタと音を立てながら田字草(デンジソウ)をかき分けて進んで行く。 水面に咲いた蓮の花はま…

陸龜蒙の詩「白蓮」に思う

白蓮 陸龜蒙〔唐代〕 素蘤多蒙別豔欺,此花端合在瑶池。 無情有恨何人覚,月暁風清欲堕時。 上品な白い蓮の花は、よく他の艶やかな色の花から虐げられる。 高潔で汚れのないこの花(白蓮)は、まことに仙界の瑶池にあるべきである。 情がないとはいえ恨みは…

崔道融 の詩「牧豎」に思う

牧豎 崔道融 〔唐代〕 牧豎持蓑笠,逢人気傲然。 臥牛吹短笛,耕却傍渓田。 牧童は蓑をまとい、笠をかぶって、人に出会えば得意げである。 (放牧をするときは)牛の背に臥して笛を吹き、牛が田を耕しているときは、田の近くの渓流で遊んでいる。 「牧豎」は…

于鹄の詩「巴女謡」に思う

巴女謡 于鹄 〔唐代〕 巴女騎牛唱竹枝,藕絲菱葉傍江時。 不愁日暮還家錯,記得芭蕉出槿籬。 巴(地名:現在の四川省巴江一帯)の女の子が牛の背に乗り、竹枝詞(巴渝:現在の重慶一帯の民謡)を歌いながら、ゆっくりと家に帰っていく。周囲の河には、蓮の花…

韋庄 の詩「与小女」に思う

与小女 韋庄 〔唐代〕 見人初解語嘔啞,不肯帰眠恋小車。 一夜嬌啼縁底事,為嫌衣少縷金華。 大人を見てはアーウーと言葉を習い始め、おもちゃの車で遊んでは、眠ろうとしない。 ぐずって一晩中泣いているのは、一体どうしたことか。服の上に金の糸で施した…

呂岩の詩「牧童 」に思う

牧童 呂岩 〔唐代〕 草舗横野六七里,笛弄晩風三四声。 帰来飽飯黄昏後,不脱蓑衣臥月明。 青草を敷いたように広々とした原野に6,7里にわたって草地が広がっている。 (牧童が吹く)笛の音が夕方、風に乗って途切れ途切れに聞こえてくる。 (牧童が)帰宅し…

胡令能 の詩「小児垂釣」に思う

小児垂釣 胡令能 〔唐代〕 蓬頭稚子学垂纶,側坐莓苔草映身。 路人借問遙招手,怕得魚驚不応人。 ぼさぼさ頭の子供が川辺で魚つりの練習をしている。莓苔の上に体を斜めにして座り込み、草で身を隠して(魚から見えないようにし)ている。 通りすがりの人が…

白居易の詩「池上」に思う

池上 白居易 〔唐代〕 小娃撐小艇,偷採白蓮回。 不解蔵蹤跡,浮萍一道開。 子供が竿で小舟を操り、こっそりと池の中から白い蓮の花を採って帰って来る。 彼は自分の行方を隠すことを知らず、水面には小舟が浮草を分けて通った一本の跡が残されている。 「池…

韋応物の詩「夏花明」に思う

夏花明 韋応物 〔唐代〕 夏条緑已密,朱萼綴明鮮。 炎炎日正午,灼灼火俱燃。 翻風適自乱,照水復/複成妍。 帰視窓間字,熒煌満眼前。 夏、樹木の枝が生い茂り、緑が満ちあふれ、朱色の花の萼が明るく鮮やかである。 陽差しの強い正午、花は益々明るく輝き、…

窦叔向の詩「夏夜宿表兄話旧」に思う

夏夜宿表兄話旧 窦叔向 〔唐代〕 夜合花開香満庭,夜深微雨酔初醒。 遠書珍重何曾達,旧事淒涼不可聴。 去日児童皆長大,昔年親友半凋零。 明朝又是孤舟別,愁見河橋酒幔青。 夜も深まり小糠雨が降る中、庭には百合の花の香りが満ち、最初の酔いも程良く醒め…

元稹の詩「詠廿四気詩·小暑六月節」に思う

詠廿四気詩·小暑六月節 元稹 〔唐代〕 倏忽温風至,因循小暑来。 竹喧先覚雨,山暗已聞雷。 戸牖深青霭,階庭長緑苔。 鷹鸇新習学,蟋蟀莫相催。 急に風が温かくなったと思ったら、小暑がやってきたのだ。 竹林から聞こえてくる喧噪に雨が降り出したことを知…

元稹の詩「詠廿四気詩·立夏四月節」に思う

詠廿四気詩·立夏四月節 元稹 〔唐代〕 欲知春与夏,仲呂啓朱明。 蚯蚓誰教出,王菰自合生。 簾蚕呈繭様,林鳥哺雛声。 漸覚雲峰好,徐徐帯雨行。 春と夏の入れ替わりは、(農歴)4月になり立夏節を迎え、夏の始まりが告げられることで知ることができる。 誰…

孟浩然の詩「夏日浮舟過陳大水亭 / 浮舟過滕逸人別業 」に思う

夏日浮舟過陳大水亭 / 浮舟過滕逸人別業 孟浩然 〔唐代〕 水亭涼気多,閑棹晩来過。 澗影見松竹,潭香聞芰荷。 野童扶酔舞,山鳥助酣歌。 幽賞未雲遍,煙光奈夕何。 夏の日の水亭はことのほか涼しく、水中に松や青竹が映り込み、水の淵からは蓮の香りが漂っ…

李白の詩「白田馬上聞鶯」に思う

白田馬上聞鶯 李白 〔唐代〕 黄鹂啄紫椹,五月鳴桑枝。 我行不記日,誤作陽春時。 蚕老客未帰,白田已缫絲。 駆馬又前去,捫心空自悲。 黄鶯(コウライウグイス)は、紫色の桑の実を啄み、5月になり桑の木の枝で啼いている。 私はすっかり今日がいつなのかわ…

杜牧の詩「斉安郡後池絶句」に思う

斉安郡後池絶句 杜牧 〔唐代〕 菱透浮萍緑錦池,夏莺千啭弄蔷薇。 尽日無人看微雨,鴛鴦相対浴紅衣。 池は菱と浮き草が織りなす美しい緑の錦を呈しており、池のほとりでは鶯がしきりに囀ずりながら薔薇の花と戯れている。 今日は終日人が来るあてもないので…

李白の詩「夏日山中」に思う

夏日山中 李白 〔唐代〕 懶搖白羽扇,裸袒青林中。 脫巾掛石壁,露頂灑松風。 白い羽の団扇で扇ぐのもめんどうで、青々と木の茂る森林の中で肩肌脱ぎになる。 頭巾を脱いで岩の壁面にひっかけ、冠をつけないで頭を露わにして松の木を吹き抜ける風に晒してみ…

徐凝 の詩「春雨」に思う

春雨 徐凝 〔唐代〕 花時悶見聯綿雨,雲入人家水毀堤。 昨日春風源上路,可憐紅錦枉拋泥。 本来であれば花々が咲き乱れる春であるのに、連日雨が降り続き、黒く垂れ込めた雲はさらに雨を降らせ、堰堤が壊されてしまった。 昨日の春風は、これから天気が好転…

王維の詩「戲題盤石」に思う

戲題盤石 王維 〔唐代〕 可憐盤石臨泉水,複有垂楊拂酒杯。 若道春風不解意,何因吹送落花來。 大きくて平らな岩がある。(まるで私のために準備されたテーブルのような)素晴らしい岩である。足下には泉が湧き清らかな水が流れている。また、青々とした柳の…

嚴惲の詩「落花」に思う

落花 嚴惲 〔唐代〕 春光冉冉歸何處,更向花前把一杯。 盡日問花花不語,為誰零落為誰開。 春の穏やかで美しい風光はどこへ帰っていくのかわからないままに、ただ花に向かって一杯の杯を傾ける。 終日花に語りかける、いったい誰のために咲き、誰のために散…

柳宗元 の詩「零陵春望」に思う

零陵春望 柳宗元 〔唐代〕 平野春草綠,曉鶯啼遠林。 日晴瀟湘渚,雲斷岣嶁岑。 仙駕不可望,世途非所任。 凝情空景慕,萬裏蒼梧陰。 平らかに広がる原野には、春草が生い茂り、緑に満ちており、明け方には遠くの林から鶯の啼く声が響いてくる。 柔らかな日…

柳宗元 の詩「零陵早春」に思う

零陵早春 柳宗元 〔唐代〕 問春從此去,幾日到秦原。 憑寄還鄉夢,殷勤入故園。 (春の神に)お尋ねするが、春はここから去り、幾日かかって長安のある陝西の原野に到るのでしょう。故郷へ還る夢に乗せて、私を故郷へと連れて帰ってはくれませぬか。 「零陵…

溫庭筠の詩「春日野行」に思う

春日野行 溫庭筠 〔唐代〕 騎馬踏煙莎,青春奈怨何。 蝶翎朝粉盡,鴉背夕陽多。 柳豔欺芳帶,山愁縈翠蛾。 別情無處說,方寸是星河。 馬に乗って莎草(カヤツリグサ)を踏みながら行くも、春の景色はいかんともしがたく我が目に映る。 蝶は羽がすでに色あせ…

陸龜蒙の詩「春曉」に思う

春曉 陸龜蒙 〔唐代〕 春庭曉景別,清露花邐迤。 黃蜂一過慵,夜夜棲香蕊。 春の明け方の庭には、清らかな朝露が艶やかな花びらの上で連なっている。 香り豊かな花蕊には、黄色い蜂が夜の間、疲れた体を休めている。 「春曉」は、唐代の詩人陸龜蒙(?-881年)…

杜審言の詩「渡湘江」に思う

渡湘江 湘江を渡る 杜審言 〔唐代〕 遲日園林悲昔遊, 遅日 園林 昔遊を悲しむ 今春花鳥作邊愁。 今春 花鳥 辺愁を作す 獨憐京國人南竄, 独り憐れむ 京国の人南竄せられ 不似湘江水北流。 湘江の水の北流するに似ざるを かつてうららかな春の日に園庭の林で…

白居易の詩「杭州春望」に思う

杭州春望 白居易 〔唐代〕 望海樓明照曙霞,護江堤白踏晴沙。 濤聲夜入伍員廟,柳色春藏蘇小家。 紅袖織綾誇柿蒂,青旗沽酒趁梨花。 誰開湖寺西南路,草綠裙腰一道斜。 杭州の城外を望むことができる望海楼が、朝焼けに照らし出され、治水の堤防(西湖の中の…

白居易の詩「春題湖上」に思う

春題湖上 白居易 〔唐代〕 湖上春來似畫圖,亂峰圍繞水平鋪。 松排山面千重翠,月點波心一顆珠。 碧毯線頭抽早稻,青羅裙帶展新蒲。 未能拋得杭州去,一半勾留是此湖。 西湖に春が来れば、それはまるで絵のように美しい。 不揃いにそびえたつ峰々に囲まれて…

張敬忠 の詩「邊詞」に思う

邊詞 張敬忠 〔唐代〕 五原春色舊來遲,二月垂楊未掛絲。 即今河畔冰開日,正是長安花落時。 もとより五原(現在の內蒙古自治区五原縣)は春の訪れが遅いところであり、二月(陰暦二月:仲春)になっても、まだ垂れ柳は芽吹いていない。 たった今、川辺の氷…

武元衡の詩「春興」に思う

春興 武元衡 〔唐代〕 楊柳陰陰細雨晴,殘花落盡見流鶯。 春風一夜吹鄉夢,又逐春風到洛城。 春雨が晴れ、枝葉を鬱蒼と茂らせた柳は、雨に洗われて緑をさらに濃くし、残っていた花は落ち尽くし、鶯が春の過ぎ行くのを見て啼いている。 心地良い春風が吹き、…

劉方平の詩「月夜」に思う

月夜 劉方平 〔唐代〕 更深月色半人家,北鬥闌幹南鬥斜。 今夜偏知春氣暖,蟲聲新透綠窗紗。 夜が更けて、月が傾き、人家の半分を照らし出している。北斗星は燦めき、南斗星は斜めに沈んでいく。 今夜、思いがけず春の気が暖かくなったことに気づいた。虫の…

劉昚虛の詩「闕題」に思う

闕題 劉昚虛 〔唐代〕 道由白雲盡,春與青溪長。 時有落花至,遠隨流水香。 閑門向山路,深柳讀書堂。 幽映每白日,清輝照衣裳。 山道は白い雲の果てまで伸び、春の美しい景色が渓流に沿って長く続いている。 時折、落ちた花が流れてきて、遠くからでも水の…