漢詩と和歌

於良史の詩「春山夜月」に思う

春山夜月 於良史 〔唐代〕 春山多勝事,賞玩夜忘歸。 掬水月在手,弄花香滿衣。 興來無遠近,欲去惜芳菲。 南望鳴鍾處,樓台深翠微。 春の山に入ると多くの美しいものに出会い、それらを賞翫していると帰るのを忘れてしまう。 思わず水を掬うと掌に朧月が映…

王駕の詩「雨晴」に思う

雨晴 王駕 〔唐代〕 雨前初見花間蕊,雨後全無葉底花。 蜂蝶紛紛過牆去,卻疑春色在鄰家。 雨が降る前、花は蕊がやっと見える程度に開いたばかりであったのに、雨があがって見ると、(花は散ってしまい、)もう茂った葉の中に花は無い。 蝶や蜂が次々と飛ん…

戴叔倫の詩「蘇溪亭」に思う

蘇溪亭 戴叔倫 〔唐代〕 蘇溪亭上草漫漫,誰倚東風十二闌。 燕子不歸春事晚,一汀煙雨杏花寒。 蘇溪亭の外には野草が至る所に生い茂っている。誰が歌っているのか、東からの風に乗って闌干十二曲が聞こえてくる。 春はすでにやってきているのに燕はまだ帰っ…

楊巨源の詩「城東早春」に思う

城東早春 楊巨源 詩家清景在新春,綠柳才黃半未勻。 若待上林花似錦,出門俱是看花人。 詩人が愛してやまない清新なる景色は、まさにこの早春の中にある。緑の柳の木に黄色がかった新芽が芽生えてくる、まさにこの季節だ。 長安の城内に花が咲き誇り、錦のよ…

白居易の詩「錢塘湖春行」に思う

錢塘湖春行 白居易 孤山寺北賈亭西,水麵初平雲腳低。 幾處早鶯爭暖樹,誰家新燕啄春泥。 亂花漸欲迷人眼,淺草才能沒馬蹄。 最愛湖東行不足,綠楊陰裏白沙堤。 <春の杭州西湖を行く> 北から孤山寺を回って西の貿亭を目指せば、西湖の湖水は初め平らで、雲…

 杜甫の詩「春望」に思う

春望 杜甫 國破山河在, 國破れて 山河在り, 城春草木深。 城春にして 草木深し。 感時花濺淚, 時に感じては 花にも涙を濺ぎ, 恨別鳥驚心。 別れを恨んでは 鳥にも心を驚かす。 烽火連三月, 烽火 三月に連なり, 家書抵萬金。 家書 萬金に抵たる。 白頭…

李華の詩「春行即興」に思う

春行即興 李華 宜陽城下草萋萋, 宜陽城下 草萋萋たり 澗水東流複向西。 澗水東に流れて 復た西に向う 芳樹無人花自落, 芳樹人無く 花自ずから落ち 春山一路鳥空啼。 春山一路 鳥空しく啼く 宜陽の町の郊外に春の若草が生い茂り、谷川の水は東へと流れ、さ…

杜審言の詩「和晉陵陸丞早春遊望」に思う

和晉陵陸丞早春遊望 晋陵の陸丞の早春遊望に和す 杜審言 獨有宦遊人, 独り宦遊に人有り 偏驚物候新。 偏えに物候の新たなるを驚く 雲霞出海曙, 雲霞 海を出でて曙け 梅柳渡江春。 梅柳 江を度って春なり 淑氣催黃鳥, 淑気 黄鳥を催し 晴光轉綠蘋。 晴光 …

賀知章の詩「詠柳」に思う

詠柳 賀知章 碧玉妝成一樹高,萬條垂下綠絲絛。 不知細葉誰裁出,二月春風似剪刀。 碧玉で着飾ったように美しい柳の木は、すらりと高く伸び、無数の新緑の枝葉を絹紐のように垂らしている。 この細い柳の葉は、誰が切り裂いたのだろうか。そう、まるで剪刀の…

白居易の詩「南湖早春」に思う

南湖早春 白居易 風回雲斷雨初晴,返照湖邊暖複明。 亂點碎紅山杏發,平鋪新綠水蘋生。 翅低白雁飛仍重,舌澀黃鸝語未成。 不道江南春不好,年年衰病減心情。 春風が吹いて雲は消え、雨も上がって青空が広がり、陽光が湖面を照らして暖かく、かつ明るくなっ…

李白の詩「春怨」に思う

春怨 李白 白馬金羈遼海東,羅帷繡被臥春風。 落月低軒窺燭盡,飛花入戶笑床空。 あなたは白馬に跨がり金色の羈を引いて遼海の東(遼東半島)を疾走しておられましょう。私は刺繍を施した帳の中で、錦の布団を掛けてひとり春風に吹かれております。 月は西に…

杜牧の詩「寓言」に思う

寓言 杜牧 暖風遲日柳初含,顧影看身又自慚。 何事明朝獨惆悵,杏花時節在江南。 春、暖かい風が吹き、柳には新芽が芽吹いている。(このような素晴らしい日に)私は自分の影を顧みて自分を恥じている。 この聖明の朝代に何が私を一人鬱々とさせるのか。今こ…

王勃の詩「羈春」に思う

羈春 王勃 客心千裏倦,春事一朝歸。 還傷北園裏,重見落花飛。 千里の道を漂泊し名を追い求めようとすることには倦み疲れ、春の風物は私を帰郷への思いに駆り立てる。 北園の情景は何故このように人を感傷的にさせるのか。またしても花々が風に舞い、散って…

韋應物の詩「春遊南亭」に思う

春遊南亭 韋應物 川明氣已變,岩寒雲尚擁。 南亭草心綠,春塘泉脈動。 景煦聽禽響,雨餘看柳重。 逍遙池館華,益愧專城寵。 谷川は明るさを増し、気候もすでに暖かくなったが、山の岩は雲が覆い、まだまだ寒い。 南亭の枯草には緑の新芽が芽生え、早春の池に…

杜牧の詩「即事」に思う

即事 杜牧 小院無人雨長苔, 小院人 無く 雨 苔を長じ, 滿庭修竹間疏槐。 滿庭の修竹 疏槐に間る。 春愁兀兀成幽夢, 春愁兀兀として 幽夢を成し, 又被流鶯喚醒來。 又た 流鶯に喚び醒まし來らる。 雨が降った後の小さな庭には、人の気配がなく、苔むして…

 賈島の詩「題李凝幽居」に思う

題李凝幽居 李凝の幽居に題す 賈島 閑居少鄰並, 閒居 鄰並少に, 草徑入荒園。 草徑 荒園に入る。 鳥宿池邊樹, 鳥は宿る 池邊の樹, 僧敲月下門。 僧は敲く 月下の門。 過橋分野色, 橋を過ぎて 野色を分かち, 移石動雲根。 石を移して 雲根を動かす。 暫…

賈島の詩「三月晦日贈劉評事 / 三月晦日送春」に思う

三月晦日贈劉評事 / 三月晦日送春 賈島 三月正當三十日, 三月 正に當たる 三十日, 風光別我苦吟身。 風光 我が苦吟の身に別る。 共君今夜不須睡, 君と共に 今夜睡るを須ゐず, 未到曉鍾猶是春。 未だ 曉鐘に到らざれば 猶ほ是れ春。 今日は3月30日、まさ…

韓愈の詩「晚春二首·其二」に思う

晚春二首·其二 韓愈 誰收春色將歸去, 誰か春色を收めて將に歸り去り 慢綠妖紅半不存。 慢綠 妖紅 半ば存せず。 榆莢隻能隨柳絮, 榆莢 祗だ能く柳絮に隨い, 等閑撩亂走空園。 等閒 撩亂 空園 を走る。 誰がこの春色を納めて立ち去ろうとしているのだろうか…

張旭の詩「山中留客」に思う

山中留客 張旭 山光物態弄春暉,莫為輕陰便擬歸。 縱使晴明無雨色,入雲深處亦沾衣。 山は春の光に包まれて美しく輝いています。多少雲がかかったからといって帰ってしまおうなどと思わないでください。 晴れて雨の気配がなかったとしても、山中の雲の深きと…

李商隠の詩「天涯」に思う

天涯 李商隠 春日在天涯,天涯日又斜。 鶯啼如有淚,為濕最高花。 春の日に、地の果てにある。地の果てに、太陽がまた沈もうとしている。 鶯が、涙があるかのように鳴いており、そのために、最も高いところに咲く花が濡れている。 「天涯」は、唐代の詩人李…

杜牧の詩「歎花 / 悵詩」に思う

歎花 / 悵詩 杜牧 自是尋春去校遲,不須惆悵怨芳時。 狂風落盡深紅色,綠葉成陰子滿枝。 自分は春を尋ねて行くのが遅くなってしまったが、花が咲くのが早すぎたと怨めしく思い嘆くこともあるまい。 激しい風が深紅の花を吹き落としてしまったが、緑の葉が生…

劉禹錫の詩「送春詞」に思う

送春詞 劉禹錫 昨來樓上迎春處, 昨來 樓上 春を迎へし處, 今日登樓又送歸。 今日 樓に登りて 又た歸るを送る。 蘭蕊殘妝含露泣, 蘭蕊の殘妝 露を含みて泣き, 柳條長袖向風揮。 柳條の長袖 風に向かひて揮る。 佳人對鏡容顏改, 佳人 鏡に對すれば 容顏 …

劉禹錫の詩「和樂天春詞」に思う

和樂天春詞 劉禹錫 新妝宜面下朱樓,深鎖春光一院愁。 行到中庭數花朵,蜻蜓飛上玉搔頭。 一生懸命に綺麗に化粧し、楼閣を降りていきましたが、門は深く閉ざされ、庭園にみなぎる春の光も愁いにしか感じられません。 庭を歩きながら咲いている花の数を数えて…

白居易の詩「春詞」に思う

春詞 白居易 低花樹映小妝樓,春入眉心兩點愁。 斜倚欄杆背鸚鵡,思量何事不回頭。 丈の低い花と木に閉ざされた小さな美しい楼閣は、春に入り女性の眉間に二つの愁いをもたらす。 鸚鵡に背を向けて欄干にもたれながら、何かを思案しつつも後ろを振り返らない…

張籍の詩「春別曲」に思う

春別曲 張籍 長江春水綠堪染,蓮葉出水大如錢。 江頭橘樹君自種,那不長係木蘭船。 長江の春の水は緑に染まり、その濃さは染料にもできそうです。水中に出てきたばかりの蓮の葉は銅銭ほどの大きさになっています。 当時、川岸にあなたが自ら植えた橘の木は、…

韓愈の詩「早春呈水部張十八員外 二首」に思う

早春呈水部張十八員外 二首 韓愈 其一 天街小雨潤如酥,草色遙看近卻無。 最是一年春好處,絕勝煙柳滿皇都。 其二 莫道官忙身老大,即無年少逐春心。 憑君先到江頭看,柳色如今深未深。 <其の一> 都大路に春雨が降り、黄油(バター)を塗ったように潤して…

杜甫の詩「絶句二首」に思う

絶句二首 其一 杜甫 遲日江山麗, 遅日 江山麗しく 春風花草香。 春風 花草香し 泥融飛燕子, 泥融けて 燕子飛び 沙暖睡鴛鴦。 沙暖かにして鴛鴦睡る 絶句二首 其二 江碧鳥逾白, 江碧にして 鳥逾白く 山青花欲燃。 山青くして 花然えんと欲す 今春看又過, …

杜牧の詩「江南春」に思う

江南春 杜牧 千里鶯啼綠映紅, 千里 鶯啼きて 綠 紅に映ず, 水村山郭酒旗風。 水村 山郭 酒旗の風。 南朝四百八十寺, 南朝 四百八十寺, 多少樓臺煙雨中。 多少の樓臺 煙雨の中。 果てしなく広い江南の一帯に鶯が啼き、若葉の緑が紅い花に照り映えている。…

 白居易の詩「清明夜」に思う

清明夜 白居易 好風朧月清明夜,碧砌紅軒刺史家。 獨繞回廊行複歇,遙聽弦管暗看花。 清風そよぎ、月朧なる清明の夜、私は青く切り出された石と赤い欄干のある刺史の邸宅にいる。 回廊を独り歩き、時に佇めば、遠くから弦楽器の音色が聞こえ、暗くなった庭に…

賈島の詩「清明日園林寄友人」に思う

清明日園林寄友人 賈島 今日清明節,園林勝事偏。 晴風吹柳絮,新火起廚煙。 杜草開三徑,文章憶二賢。 幾時能命駕,對酒落花前。 今日は清明節ということで、仲の良い友人たちと優美な庭園でささやかな集まりをしている。 空は晴れ渡り、柳絮が春風に吹かれ…