漢詩と和歌

 杜牧の詩「清明」に思う

清明 杜牧 清明時節雨紛紛, 清明の時節 雨紛紛 路上行人欲斷魂。 路上の行人 魂を断たんと欲す 借問酒家何處有, 借問す 酒家は何れの処にか有る 牧童遙指杏花村。 牧童 遥かに指さす 杏花の村 清明節の時期の江南は、小糠雨がよく降り、道行く人は、気が滅…

杜甫の詩「八陣圖」に思う

八陣圖 杜甫 功蓋三分國, 功は蓋う三分の国、 名成八陣圖。 名は成る八陣の図 江流石不轉, 江流るるも石転ぜず 遺恨失吞吳。 遺恨呑呉を失す。 諸葛亮の功は三国の時代を圧倒するものであり、その名声はこの八陣図を作ったことによって成ったものである。 …

韓愈の詩「晚春」に思う

晚春 韓愈 草樹知春不久歸, 草樹は春の久しく歸らざるを知り, 百般紅紫鬥芳菲。 百般の紅紫 芳菲を鬥はしむ。 楊花榆莢無才思, 楊花と榆莢 才思無く, 惟解漫天作雪飛。 惟だ天に漫り 雪と作って飛ぶを解するのみ。 草木はみな、春が去ればしばらくは帰っ…

李商隠の詩「樂遊原」に思う

樂遊原 李商隠 向晚意不適, 晩に向んとして 意適はず, 驅車登古原。 車を驅りて 古原に登る。 夕陽無限好, 夕陽 無限に好し, 只是近黃昏。 只だ是れ黄昏に近し。 日が暮れようとする頃、気分が晴れず、車を駆って樂遊原に登る。 夕日は、限りなく素晴ら…

杜甫の詩「戲為六絕句·其二」に思う

戲為六絕句·其二 杜甫 王楊盧駱當時體, 王楊盧駱は 當時の體, 輕薄為文哂未休。 輕薄 文を爲して 哂ひ 未だ休まず。 爾曹身與名俱滅, 爾曹 身と名と倶に滅ぶも, 不廢江河萬古流。 廢れざる江河 萬古に流る。 王勃や楊炯、盧照鄰、駱賓王の「初唐四傑」は…

杜甫の詩「望嶽」に思う

望嶽 嶽を望む 杜甫 岱宗夫如何, 岱宗 夫れ如何, 齊魯青未了。 齊魯 靑 未だ了らず。 造化鍾神秀, 造化は 神秀を鐘め, 陰陽割昏曉。 陰陽は 昏曉を割つ。 蕩胸生曾雲, 胸を盪かせば 曾雲生じ, 決眥入歸鳥。 眥を決すれば 歸鳥入る。 會當淩絕頂, 會ず…

杜甫の詩「熟食日示宗文宗武」に思う

熟食日示宗文宗武 杜甫 消渴遊江漢,羈棲尚甲兵。 幾年逢熟食,萬裏逼清明。 鬆柏邛山路,風花白帝城。 汝曹催我老,回首淚縱橫。 自分は消渇の病を持病としながら蜀地、江漢の地にいるが、まだ兵乱が続き故郷に帰れない。幾年も熟食日が訪れ、また清明節を…

杜甫の詩「又示宗武」に思う

又示宗武 杜甫 覓句新知律,攤書解滿床。 試吟青玉案,莫羨紫羅囊。 假日從時飲,明年共我長。 應須飽經術,已似愛文章。 十五男兒誌,三千弟子行。 曾參與遊夏,達者得升堂。 あなたは最近ではすでに詩の格律に従って詩を書くことができるようになり、机の…

杜牧の詩「題烏江亭」に思う

題烏江亭 杜牧 勝敗兵家事不期, 勝敗は兵家も事期せず 包羞忍恥是男兒。 羞を包み恥を忍ぶは是れ男児 江東子弟多才俊, 江東の子弟 才俊多し 卷土重來未可知。 巻土重来 未だ知るべからず 戦の勝敗は兵法家といえども予測できるものではない。羞を克服し、…

李嶠の詩「風」に思う

風 李嶠 解落三秋葉,能開二月花。 過江千尺浪,入竹萬竿斜。 (風は、)秋に吹いて金色の木の葉を散らし、春に吹いては美しい花を咲かせる。 河を渡れば大きな波を起こし、藪に入りては多くの竹を傾がせる。 る。 「風」は、唐代の詩人李嶠(645-714)の五言…

杜甫の詩「柏學士茅屋」に思う

柏學士茅屋 杜甫 碧山學士焚銀魚,白馬卻走深岩居。 古人已用三冬足,年少今開萬卷餘。 晴雲滿戶團傾蓋,秋水浮階溜決渠。 富貴必從勤苦得,男兒須讀五車書。 安史の乱の戦火は柏学士の官職を奪い、昔日朝廷の政治に参与し、率直な進言を行っていた彼は険し…

杜牧の詩「讀韓杜集」に思う

讀韓杜集 杜牧 杜詩韓筆愁來讀,似倩麻姑癢處搔。 天外鳳凰誰得髓,無人解合續弦膠。 愁いにあるとき、杜甫の詩や韓愈の文章を読めば心が晴れる。それはまるで仙女を招いて痒いところを掻いてもらうような爽快さである。 天外から飛んできた鳳凰のような杜甫…

孟郊の詩「 勸學」に思う

勸學 孟郊 擊石乃有火,不擊元無煙。 人學始知道,不學非自然。 萬事須己運,他得非我賢。 青春須早為,豈能長少年。 石を打って始めて火花が生じ、打たなければ僅かな煙も生じない。 人間も同じであり、学ぶことによって始めて道を知ることができ、学ばずし…

顏真卿の詩「勸學」に思う

勸學 顏真卿 三更燈火五更雞,正是男兒讀書時。 黑發不知勤學早,白首方悔讀書遲。 真夜中から雄鶏が鳴くまでの間は、少年たちが勉強するのに最適な時間である。 若者が早起きして熱心に勉強することを知らなければ、年を取ってから勉強不足を悔やんでも手遅…

錢起の詩「送僧歸日本」に思う

送僧歸日本 僧の日本に歸るを送る 錢起 上國隨緣住, 上國 縁に隨いて住す, 來途若夢行。 來途 夢行の若し。 浮天滄海遠, 天に浮かびて滄海遠く, 去世法舟輕。 世を去りて法舟輕し。 水月通禪寂, 水月禪寂に通じ, 魚龍聽梵聲。 魚龍梵聲を聽く。 惟憐一…

韋莊の詩「送日本國僧敬龍歸」に思う

送日本國僧敬龍歸 日本國の僧敬龍の歸るを送る 韋莊 扶桑已在渺茫中, 扶桑は已に渺茫たる中に在り, 家在扶桑東更東。 家は扶桑の東の更に東に在る。 此去與師誰共到, 此こを去りて師と誰か共に到らん, 一船明月一帆風。 一船の明月 一帆の風。 扶桑は、…

王維の詩「送祕書晁監還日本國」に思う

送祕書晁監還日本國 秘書晁監の日本国に還るを送る 王維 積水不可極, 積水 極む可からず 安知滄海東。 安んぞ滄海の東を知らん 九州何處遠, 九州 何れの処か遠き 萬里若乘空。 万里 空に乗ずるが若し 向國唯看日, 国に向って唯だ日を看 歸帆但信風。 帰帆…

王昌齡の詩「送魏二」に思う

送魏二 王昌齡 醉別江樓橘柚香, 醉ひて 江樓に別るれば 橘柚 香しく, 江風引雨入舟涼。 江風 雨を引きて 舟に入りて涼し。 憶君遙在瀟湘月, 憶ふ 君が 遙か瀟湘の月に在るを, 愁聽清猿夢裏長。 愁へ聽かん 清猿の夢裏に長きを。 川辺の高殿で、(酒宴を…

王維の詩「送沈子歸江東」に思う

送沈子歸江東 王維 楊柳渡頭行客稀, 楊柳の渡頭 行客稀なり 罟師蕩槳向臨圻。 罟師 槳を盪かして臨圻に向う 唯有相思似春色, 唯だ相思の春色に似たる有り 江南江北送君歸。 江南江北 君が帰るを送る 柳の揺れる渡し場に旅人は少なく、船頭が舟を漕いで岸辺…

王昌齡の詩「送柴侍禦」に思う

送柴侍禦 王昌齡 流水通波接武岡,送君不覺有離傷。(流水:沅水とする出典もある) 青山一道同雲雨,明月何曾是両郷。 流れる河の水や波は武岡に続いている。君を見送っている今、別れ行く悲しみは感じない。 山水で隔てられた両地ではあるが、青山がまとう雲…

白居易の詩「南浦別」に思う

南浦別 白居易 南浦淒淒別,西風裊裊秋。 一看腸一斷,好去莫回頭。 西風が裊裊(じょうじょう)と吹く秋の日、南側の水辺には寂しい別れの雰囲気が漂う。 友を見送り、ひとたび振り返れば断腸の思いがこみ上げる。 友よ、行きなさい、もう振り返らないよう…

薛濤の詩「  春望詞四首    其一」に思う

春望詞四首 其一 薛濤 花開不同賞, 花開くも 同に賞せず、 花落不同悲。 花落つるも 同に悲まず。 欲問相思處, 問はんと欲す 相思の處、 花開花落時。 花開き花落つるの時。 花が咲いても共に賞でることがかなわず、花が散っても共に悲しむことができない…

元稹の詩「寄贈薛濤」に思う

寄贈薛濤 元稹 錦江滑膩蛾眉秀, 錦江の滑膩 蛾眉の秀、 幻出文君與薛濤。 幻出す 文君と薛濤。 言語巧偷鸚鵡舌, 言語 巧みに倫む 鸚鵡の舌、 文章分得鳳凰毛。 文章 分ち得たり 鳳凰の毛。 紛紛辭客多停筆, 紛紛たる詞客 多く筆を停め、 個個公卿欲夢刀。…

薛濤の詩「送友人」に思う

送友人 薛濤 水國蒹葭夜有霜, 水國の蒹葭 夜 霜有り, 月寒山色共蒼蒼。 月寒く 山色も 共に蒼蒼たり。 誰言千裏自今夕, 誰か言ふ「千里 今夕 自りす」と, 離夢杳如關塞長。 離夢 杳如として 關塞 長し。 水郷の生えたばかりの葦には、夜になって霜が降り…

白居易の詩「賦得古原草送別」に思う

賦得古原草送別 白居易 離離原上草, 離離たり 原上の草, 一歲一枯榮。 一歳に一たび 枯榮す。 野火燒不盡, 野火 燒けども盡きず, 春風吹又生。 春風 吹きて又生ず。 遠芳侵古道, 遠芳 古道を侵し, 晴翠接荒城。 晴翠 荒城に接す。 又送王孫去, 又 王…

王昌齡の詩「送郭司倉」に思う

送郭司倉 郭司倉を送る 王昌齡 映門淮水綠, 門に映ず 淮水の緑 留騎主人心。 騎を留む 主人の心 明月隨良掾, 明月 良掾に随い 春潮夜夜深。 春潮 夜夜に深し 門前を流れる淮水に映る濃い緑、暫く騎馬の彼を引き留めたのは、送る主としての友情のゆえである…

李白の詩「 送友人」に思う

送友人 李白 青山橫北郭, 青山 北郭に横たわり 白水遶東城。 白水 東城を遶る 此地一為別, 此の地 一たび別れを為し 孤蓬萬里征。 孤蓬 万里に征く 浮雲遊子意, 浮雲 游子の意 落日故人情。 落日 故人の情 揮手自茲去, 手を揮って 茲より去れば 蕭蕭班馬…

孟浩然の詩「送朱大入秦」に思う

送朱大入秦 朱大の秦に入るを送る 孟浩然 遊人五陵去, 遊人 五陵に去る 寶劍值千金。 宝剣 値千金 分手脫相贈, 手を分つとき 脱して相贈る 平生一片心。 平生 一片の心 君は遠く五陵へと発つ。この宝剣は千金に値する。 私は君との別れに際し、これを贈る…

劉長卿の詩「送上人」に思う

送上人 劉長卿 孤雲將野鶴, 孤雲 野鶴を將る, 豈向人間住。 豈人間に向ひ住せんや。 莫買沃洲山, 沃洲山を買ふこと莫れ, 時人已知處。 時人 已に知れる處。 空に浮かぶ一片の雲は野鶴を送る。このような野鶴がどうして俗世に住めましょう。 あなたのよう…

劉長卿の詩「送靈澈上人」に思う

送靈澈上人 劉長卿 蒼蒼竹林寺, 蒼蒼たり 竹林の寺, 杳杳鍾聲晚。 杳杳として 鐘聲晩し。 荷笠帶斜陽, 笠を荷ひ 斜陽を帶び, 青山獨歸遠。 青山 獨り 歸ること遠し。 鬱蒼とした竹林寺。遠く聞こえる晩鐘。 君は笠を背に、夕日に照らされながら、ひとり…