王維の詩「九月九日憶山東兄弟」に思う

 九月九日憶山東兄弟 

   王維(唐)

  獨在異鄕爲異客,  
  毎逢佳節倍思親。  

  遙知兄弟登高處,  

  徧插茱萸少一人。  

 

九月九日 山東の兄弟を憶(おも)う

 独り異郷にありて 異客(いかく)と為り、

佳節に逢(あ)うごとに 倍(ますます)親(しん)を思う。

遥かに知る 兄弟(けいてい)高きに登る処、

遍(あまね)く茱萸(しゅゆ)を挿(さ)して 一人(いちにん)を少(か)くを。

 

 ひとり異郷の客となり、節句に逢うごとにひとしお家人をなつかしむ。今日は正に重陽の節句、今ごろは、兄弟たちは揃って山に登り、茱萸を挿しているなかに、ただ私一人が欠けているので、遠方に在る兄弟の身の上のことを思い起こして居るであろう。

 

 

 この詩は唐代の詩人王維17歳の時のもので、自分の望郷の念をストレートに詠むのではなく、兄弟たちが自分のことを心配しているだろうと気遣うことによって、その気持ちを婉曲に表現しています。しかし、そのことがかえって王維自身の故郷への思い、家人への思いを強く印象づけています。

 

 今でも多くの中国人は、節句(祝祭日)に家族や親戚で団欒し、賑やかに祝って過ごします。その中で最も重視されているのが春節(旧正月)です。中国では、「お金があってもなくても、春節は実家に帰って過ごす」と言われるほど春節は重要な節句。

 

 今年も春運と呼ばれる旧正月前後約40日間の中華民族大移動の時期を迎えています。この時期は、帰省・Uターンラッシュで、交通機関が大変な混雑となります。しかし、今年は様相が全く異なります。

 

 冬に入り新型コロナウイルス感染症が散発しているため、「不要不急の場合を除き、帰省せずに今いる場所で春節を過ごそう」という呼びかけが次々に出され、帰省することをあきらめた人も多いのです。今年は、初めて異郷で春節を過ごす人も多いでしょう。

 

 この詩の“每逢佳节倍思亲” は、異郷で勉学にはげむ大学生が、節句によく口ずさむ句です。今年はこの詩を思いだし、この句を口ずさみながら故郷に深く思いをいたす人が多いのではないかと思います。

 

 

 2012年に中国の大学に赴任し、初めて迎えた元旦が学期末試験の一日目だったことを思い出します。正月を旧暦で祝う中国では、西暦の1月1日は、ほとんど意味が無いことをまさに異郷の異客である私は初めて知りました。しかし、試験の慌ただしさが、かえって寂しさを紛らわしてくれました。最近は、中国でも西暦1月1日を元旦とし3日間を法定の休日にしており、大学も休みとなりましたが。

 

  学生のしどろもどろな応答を笑みで返せり会話の試験

  答案に60点と赤で記し元旦の日の暮れてゆきたり    cogito

 

 

 

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