王 翰の詩「涼州詞」に思う

涼州詞 王 翰

葡萄美酒夜光杯, 葡萄の美酒 夜光の杯、

欲飲琵琶馬上催。 飲まんと欲すれば 琵琶 馬上に催す。

酔臥沙場君莫笑, 酔うて沙場に臥す 君笑うこと莫れ、

古来征戦幾人回。 古来征戦 幾人か回る。

 

白玉の杯に葡萄酒を満たし、今正に杯を挙げんとするとき、出征を促す琵琶の音が馬上から聞こえ来る。たとえ戦場の砂漠に酔いつぶれても、君笑うことなかれ。古より戦に出て、幾人が無事に帰ったか。

 

「涼州詞」は、唐の詩人王翰の組詩で、二編の内の一つです。出征前の盛大な酒宴、戦士たちの豪快な飲酒の場面に、生死の前線に身をおく並外れた度量の大きさとともに、詩人王翰の豪放な性格を見ることができます。しかし、後半の二句には、望郷の思いとともに戦に抗う感情が表出しているともいえるでしょう。

 

中国の教育においては、「語文(国語)」「数学」「英語」が非常に重視されています。中でも「語文(国語)」の比重が大きく、国語教育で重視されているのが、古今の優れた詩文を暗唱することです。

《全日制义务教育语文课程标准》(2011年版)(日本の学習指導要領にあたる)には、小学1~6年で75編、中学1~3年で61編の詩文が暗唱の推薦詩文として載せられています。杜甫や李白などの唐詩のほか、蘇軾などの宋詞、孔子の「論語」なども含まれています。王翰のこの詩も見られます。

 

この詩は、中国教育部組織編著、義務教育教科書「語文(国語)」4年上(2019年印刷)の第7単元「国家の繁栄と衰亡は、一人一人みなに責任がある」というテーマの下に、王昌齢の「出塞」、李清照の「夏日絶句」と共に載せられています。教科書には、感情を込めて朗読し、暗唱するように注意書きが施されています。

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中国各地の小中学校を訪問した際、国語の時間だけでなく、早朝や授業前後の時間を使って、クラス全員で推薦詩文などを暗唱する姿が見られました。関係者の話では、意味が充分に理解できていなくても、記憶力がよい小中学生の時に、徹底して美しい詩文を体に刻み込んでおくことに意味がある、とのことでした。

 

先日、大学の漢語研究院の教授が、「文革等の影響で、子供時代に学ぶべきことが学べていない自らの世代に欠けているもの」について言及され、現在の教育を肯定されていたのが印象的でした。

 

 中国には悠久の歴史と多民族がもたらす素晴らしい伝統文化があります。それらを次世代に如何に伝えていくのか。教育に携わる者にとって悩ましい課題だといえるでしょう。

 

 整然と並びし子らは朗朗と征戦の詩を詠ひてゐたり   cogito

 

 

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