白居易の詩「問劉十九」に思う

問劉十九    劉十九に問う

 白居易

綠螘新醅酒, 綠螘 新醅の酒

紅泥小火壚。 紅泥の小火壚

晩來天欲雪, 晩來 天 雪ふらんと欲す

能飮一杯無。 能く一杯を飲むや無や

 

私のところに新たに醸し、濾過しない綠螘(りょくぎ)の酒があり、その上紅泥(こうでい)の小炉がある。今夜は雪が降りそうだ、君一杯飲みに来ませんか。

 

「問劉十九」は、唐代の詩人白居易の五言絶句。雪が降りそうな寒い夕方、「酒を飲みに来ないか」と友人を誘う内容です。素朴でやさしい言葉に、共に杯を傾けたいという友人間の誠実で密接な関係が表現されており、魅力的です。詩は全体を通して軽やかに意図が貫かれ、洒脱な印象を与え、共感しやすい詩といえましょう。

杜甫や李白の詩と比べて、庸俗ともいわれる白居易の詩ですが、この詩の中には、綠螘の酒の緑、紅泥の赤、雪の白、そして晩來から連想する黒と色彩がちりばめられており、凡庸な内容を非凡な技巧が彩っています。

生活の中の素朴な感情の表出は、白居易の詩が多くの日本人に愛された由縁でもあるでしょう。

 

私はこの詩を読んで、3年前の出来事を思い出しました。

 

 2018年1月4日、大学の学期末試験を終え、成績処理をしていました。そこに(中国人の)中国茶道の先生から「良いお茶があります。飲みにいらっしゃいませんか。」というメッセージが届きました。

私は、すぐさま「伺います。」と返信し、身支度をして出かけました。その日の南京は、前日からの雪が残り、かなり寒い日でした。地下鉄の駅を出ると、車で先生が迎えに来てくださっていました。

先生が主宰されている茶館に行くと、紅泥の炉と橄欖炭が準備されており、手際よく火をおこし、年代物のプーアール茶を専用の道具で丁寧に崩して、お茶を入れてくださいました。

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炭の香り、お茶の豊かな色と味わい、その温かさのすべてを、先生の優しい笑顔と共に鮮やかに思い出します。

 

寒い南京の初春を異国で過ごす友人を思い、声をかけてくださった先生のことを、いつまでも忘れることはないでしょう。ありがとうございました。

 

  過去のこと燃して入れたる琥珀の茶固き体を融かしてゆきぬ  cogito

 

 

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