王之渙の詩「 登鸛雀楼」に思う

  登鸛雀楼   鸛雀楼(かんじゃくろう)に登る

   王之渙

  白 日 依 山 尽,  白日、山に依りて尽き
  黄 河 入 海 流。  黄河、海に入りて流る。
  欲 窮 千 里 目,     千里の目を窮めんと欲し
  更 上 一 層 樓。  更に一層の楼に上る。

 

鸛雀楼に登って望めば、太陽は西山によりそって沈もうとし、黄河は東海に向かって流れ去る光景である。もし千里のながめを窮めようとするならば、更にもう一階上へと登らなければならない。

 

「登鸛雀楼」は、盛唐の詩人王之渙(688年—742年)の五言絶句。王之渙35歳の作です。この詩はまず、鸛雀楼から見る景観の壮大さを、わずか10字で雄渾に描き、読む者を引きつけます。後半では、更に広い視野を窮めるためには、もう一つ登らなければならないと、高い境地へと誘い込みます。志高き詩人に促され、思わずもう一つ登ってみようという力を与えてくれる勧勉詩です。

また、この詩は、全編が対句で構成された全対格の詩でもあります。「白」と「黄」の色彩の対比から始まり、「日」と「河」、「依」と「入」、「山」と「海」、「尽」と「流」、「千」と「一」と対比され、構成の美しさでも知られています。しかし、対句の技巧を感じさせず、圧倒的なスケールの大きさと力強さに、人を引き込む魅力があります。

 

この詩は、中国の義務教育教科書「語文(国語)」2年(上)に登場します。学校の教室の前面に「更 上 一 層 樓」の一句が高く掲げられているのをよく見かけます。中国の学生には馴染み深い詩で、いつもそばにあり、苦難や挫折に遭遇したときに励まし、得意になったときに更に上があると諫めてくれる詩といえます。

 

また、この詩は盛唐に作詩されたもので、その時代背景とも呼応し、21世紀を生きる中国の人々に更なる親近感を与えているといえそうです。

中国に長く住み、多くの地を訪れ、おのずと体感するのは、スケールの大きさです。中国は日本に比べ、全てが大きいとさえ言えます。日本にいたときには感じ取ることができなかった漢詩の世界のスケール感も、最近少しずつわかるようになった気がします。

 

この詩は、異国で奮闘中のアラ還の私自身を励ましてくれる詩でもあります。

 

  アラ還の背を押したる王之渙チョモランマの頂き遠く  cogito

 

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