駱賓王の詩「詠鵝」に思う
詠鵝 駱賓王
鵝,鵝,鵝, 鵝 鵝 鵝,
曲項向天歌。 曲項 天に向ひて歌ふ。
白毛浮綠水, 白毛 綠水に浮き,
紅掌撥清波。 紅掌 淸波を撥(か)く。
鵞鳥を詠む 駱賓王
鵞鳥、鵞鳥、鵞鳥よ。(「ガァ、ガァ、ガァ」鳴き声の擬声音(中国語:é)とも取れる。
曲がった首を天に向けて歌う。白い羽毛を澄んだ緑色の水に浮かべ、赤い脚の蹼(みずかき)で清らかな小波を劃(か)いている。
「詠鵝」は、初唐の詩人駱賓王(640年?~?)の五言古詩。王勃、楊炯、盧照鄰とともに初唐の四傑と称されます。
駱賓王が7歳の時に作ったもので、以来「神童」と褒め称えられました。
家に客人が訪れた際、客人はまだ子供である駱賓王の聡明な対応に驚き、近くの池で鵞鳥が浮かんでいる様子をみて、詩を作らせたのだといいます。
詩人は、鵞鳥の鳴き声、色と形状、動作を生き生きと描き、読む者に美しい画面を想像させます。
この詩は、中国の義務教育教科書「語文(国語)」1年上(p.16)に出てきます。
《全日制义务教育语文课程标准》(2011年版)(日本の学習指導要領にあたる)には、小学1~6年で75編、中学1~3年で61編の詩文が暗唱の推薦詩文として載せられていますが、その中で、子どもたちが最初に出会う詩です。
この詩を何度も声に出して読み、場面を想像しながら、暗唱するのでしょう。
さらにこの詩は、自分で詩を作る楽しさも教えているといえそうです。
漢詩は中国人にとっても作るのが難しいと言われます。
五言、七言、絶句、律詩、対句、押韻など決まり事が多く、杜甫や李白など偉大な詩人の完成度の高い素晴らしい境界の詩を鑑賞すればするほど、自作できなくなると学生たちは話します。
大学の授業で、日本では小学生のころから短歌や俳句に親しみ、学校の宿題で創作することも多いと話すと、学生たちは驚きます。中国の定型詩は鑑賞するものであり、簡単に創作できるものではないと言います。
近年中国の教育は、伝統文化を重視してきており、学校教育だけでなく、社会全体で伝統文化の復興が行われています。
そうした中、伝統文化を大事に守っていくだけでなく、継承しつつ創造する取り組みがおこなわれています。
中国の子どもたちは、学校でこの詩を最初に学び親しむことで、詩作が身近なものになるのではないかと思います。
今後、中華の国粋として漢詩を鑑賞するにとどまらず、自己表現の手段として創作することも広がっていくのかもしれません。
かつて「紅楼夢」の中で、賈寶玉や林黛玉がよく詩を詠んでいたように。
薄墨に染まる水辺に佇みて浮寝の鳥二羽君と見てをり cogito
中国:義務教育教科書「語文」1年(上)p.16
https://so.gushiwen.org/shiwenv_eeb3869b6242.aspx