杜甫の詩「春日憶李白 」に思う
春日憶李白
杜甫
白也詩無敵, 白や 詩に敵無く,
飄然思不群。 飄然 思ひ群ならず。
清新庾開府, 清新なるは 庾開府,
俊逸鮑參軍。 俊逸なるは 鮑參軍。
渭北春天樹, 渭北 春天の樹,
江東日暮雲。 江東 日暮の雲。
何時一樽酒, 何れの時か 一樽の酒,
重與細論文。 重ねて與に細やかに文を論ぜん。
李白よ、あなたの詩は天下無敵、自由奔放な発想は群を抜いている。その詩の清新なことは庾開府(庾信:南北朝の文学者)のようであり、俊逸さは鮑參軍(鮑照:南朝宋の文学者)のようである。
渭北(杜甫の居住地:黄河の支流、長安の北)は、すっかり春めき、木々が茂っている。江東(李白の居住地:現在の江蘇省、長江以南の地)には、夕暮れの雲がかかっていることだろう。いつの日かあなたと一樽の酒を酌み交わしながら、再び詩を詳しく語り合えるだろうか。
「春日憶李白」は、唐代の詩人杜甫の五言律詩。
この詩は、杜甫が746年ごろ長安に住んでいた時に李白を思って作った詩です。
李白(701-762)は、「詩仙」と呼ばれ浪漫主義の詩人として、杜甫(712-770)は、「詩聖」と呼ばれ現実主義の詩人として有名です。
性格も詩風も全く対照的な2人でしたが、744年洛陽で出会い、意気投合して1年ほど時を共有しています。
李白は玄宗皇帝に召されて翰林供奉となり、すでに詩人としての名声を得ていました。一方、杜甫は科挙の受験勉強中であったといいます。
この時杜甫は先輩詩人である李白から大きな影響を受けたとみられます。
しかし、その後、李白は長安を追われ江東に赴きます。この詩が作られたのは、この時期です。
以後、2人は二度と会うことはなかったのですが、杜甫は李白を懐かしみ、いくつかの詩を残しており、そのうちの一首がこれです。
李白の詩を天下無敵と称え、その発想は群を抜いていると称賛していることからも、杜甫の李白への憧れにも似た思いが伝わってきます。
しかし、杜甫は李白を尊敬し憧れもしましたが、その詩を模倣するのではなく、李白にない独自の詩風を追求したといえます。
唐代には、多くの詩人が輩出し、5万を超える詩が残っています。
詩人同士の交流も盛んだったようで、互いに刺激し合いながら、その芸術性を高めていったのでしょう。羨ましい限りです。
時代や分野を問わず、人が成長するためには、時に称賛しあい、時に異議を唱えて激論を交わす仲間の存在が重要でしょう。
大学は、仲間を得て、共に自由な発言が許され、切磋琢磨しながら成長し合える場です。その場で学生の潜在的な力を引き出すきっかけを与えるのが教師の役割ともいえるでしょう。
来週から新学期が始まります。
申岭の幽けし声を反芻す人の去りたる教室に立ち cogito