王維の詩「渭城曲」に思う

   渭城曲 

     王維

  渭城朝雨浥輕塵, 渭城の朝雨 軽塵を浥す

  客舍青青柳色新。 客舎青青 柳色新たなり
  勸君更盡一杯酒, 君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒

  西出陽關無故人。 西のかた 陽関を出ずれば 故人無からん

 

渭城の明け方の雨が土埃を湿らせ、旅舎窓外の柳も青々として清々しい。さあ君、もう一杯飲み干したまえ、西の陽関を出れば、もう(こうして酒を酌み交わす)古い友はいないのだから。

 

「渭城曲」は、唐代の詩人王維(701?-761)の七言絶句。

送別の歌としてとりわけ有名な詩です。メロディーにのせて送別の際に歌われ、さらにメロディーだけが器楽曲として演奏されるようにもなりました。

 

この詩は「送元二使安西」とも題されます。

安西とは、現在の新疆ウイグル自治区庫車に置かれた都護府の名。元二とは、詩人の友人元常のことで、元家の二番目の子供で「元二」とも呼びました。

 

前半では、別れの日の朝の情景を描写します。雨が程よく降り、道や空気を清め、柳は青々として風景に彩りを添えます。

古代、別れに際し柳の枝を手折って輪にし、旅立つ人に送る習慣がありました。

柳は生命力が強く、魔除けの力を持つと言われます。

また、中国語特有の諧音により、無事に帰って来てほしいというメッセージがこめられ、別離の象徴となりました。

この朝、見送る詩人も旅立つ人も柳を特別な思いで眺めていたことでしょう。

 

後半では、遙か辺境に旅立つ友人を案じる思いが一気にあふれ出します。

杯を重ねるのは、別れの時を送らせようとする詩人の惜別の情の表れでしょう。

 

王維は、「詩佛」と呼ばれ、禅宗の思想の影響を受けた山水詩で有名です。自然の情景と詩人の心情が溶け合い、いつまでも心に残る送別詩だと思います。

   

 

  二十年ぶりに会ひたる友と見る 何もなかつたやうな青空  cogito

 

 

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