劉長卿の詩「送靈澈上人」に思う

送靈澈上人

 劉長卿 

蒼蒼竹林寺, 蒼蒼たり 竹林の寺,

杳杳鍾聲晚。 杳杳として 鐘聲晩し。

荷笠帶斜陽, 笠を荷ひ 斜陽を帶び,

青山獨歸遠。 青山 獨り 歸ること遠し。

 

鬱蒼とした竹林寺。遠く聞こえる晩鐘。

君は笠を背に、夕日に照らされながら、ひとり遙かな青山に帰る。

 

「送靈澈上人」は、唐代の詩人劉長卿(709?-780?)の五言絶句。

劉長卿は、河間(現在の河北省)の人。進士に合格して官吏となりますが下獄、左遷されます。詩には失意の情感や離乱を詠うものが多く、五言詩に優れていることから「五言長城」と称されました。

靈澈は、唐代の著名な詩僧で、會稽(現在の浙江省紹興)の人。會稽雲門山の雲門寺で出家し修行しています。この時、竹林寺に寄宿していました。

竹林寺は、潤州(現在の浙江省杭州)にある仏教寺院で、4世紀に建てられ、1500年以上の歴史があります。

 

劉長卿と靈澈は、765年から770年にかけて竹林寺のある潤州で出会い、別れています。

この詩は、左遷され失意の中にあった劉長卿が、友人である靈澈が竹林寺に帰山するのを見送った際に作られたものです。靈澈もこの時、まだ詩人として世に認められず、江南を行脚する余儀なき状況にあったと言います。

 

見送る詩人の感情は直接表現されてはいません。

しかし、描写された美しい風景や鐘の音などから、遙かな帰山の道の安全と互いの身上を案じる思いが伝わってきます。

絵画的な風景描写と洗練された言葉は、素朴ながら深い味わいを与えてくれます。

 

 

  黄砂降り花粉も飛びてかすみたり君の姿の遠くにありて  cogito

 

 

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