杜甫の詩「絶句二首」に思う


 絶句二首 其一

  杜甫

遲日江山麗, 遅日 江山麗しく

春風花草香。 春風 花草香し

泥融飛燕子, 泥融けて 燕子飛び

沙暖睡鴛鴦。 沙暖かにして鴛鴦睡る

 

絶句二首  其二

江碧鳥逾白, 江碧にして 鳥逾白く

山青花欲燃。 山青くして 花然えんと欲す

今春看又過, 今春 看又た過ぐ

何日是歸年。 何れの日か 是れ帰年

 

<其の一>

のどかな春の日、山水は麗しく、春風に乗って、草花の香りがする。
凍り付いた泥は春の日差しで融け、燕は巣づくりに飛びまわり、砂は暖かく、鴛鴦が眠っている。

<其の二>

川の水は青緑色にして、鳥の色の白さを一層引き立て、山の色は青く、花は燃えあがらんばかりである。

今年の春も、眺めているうちに、またもや過ぎてしまったが、一体いつになれば郷里へ帰ることができるのだろうか。

 

「絶句二首」は、唐代の詩人杜甫の五言絶句の組詩です。

この詩は、764年に成都近くの草堂で、春の情景を詠んだものです。

 

杜甫は、若い頃、科挙を受験しますが及第できず、各地を遍歴します。やがて長安に居住し李白らと親交を結びます。

安史の乱では賊軍に捕らえられましたが、脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられます。しかしその翌年左遷されたため官を捨てます。

四十八歳の時、成都の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごし、再び各地を転々とします。

 

第一の詩は、春の鮮やかな自然が流麗な言葉で表現されており、明るく美しい雰囲気の中に自然を愛し謳歌する詩人の様子を読み取ることができます。

第二の詩は、春の豊かな色彩の中に詩人の郷愁の念が加わり、詩の味わいを深めています。

この2つの詩は、鮮やかな春色の美しさを生き生きと自然に表現しており、杜甫が放浪の旅を経て草堂で一時的な心の安らぎを得ている様子をくみ取ることができます。

また、春の鮮やかな色彩がかえって帰郷が叶わない詩人の陰鬱な思いを際立たせているともいえそうです。

参考:《唐诗鉴赏辞典 新一版》2013年,上海辞书出版社,601-603页

https://so.gushiwen.org/shiwenv_03b34d6fdc1b.aspx

 

 

薄らかな磁器の如くに青に映ゆ白蓮ひとつ掴みてみたり   cogito

 

 

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