韓愈の詩「早春呈水部張十八員外 二首」に思う

早春呈水部張十八員外 二首

         韓愈

其一

天街小雨潤如酥,草色遙看近卻無。

最是一年春好處,絕勝煙柳滿皇都。

 

其二

莫道官忙身老大,即無年少逐春心。

憑君先到江頭看,柳色如今深未深。

 

<其の一>

都大路に春雨が降り、黄油(バター)を塗ったように潤している。遠くから見ると一帯はすでに春色を呈しているようだが、近寄ってみるとまだ草木は芽吹いていない。

今ここは早春の最も美しい季節である。長安一帯が柳の緑に煙るのも美しいが、その前の芽吹きを感じる今こそがもっと素晴らしい。

 

<其の二>

仕事が忙しく、年も取り、すでに少年の頃のように何処までも春を追いかけるような心は失せてしまったなどと言わないでほしい。

君がまず川辺に行き、柳の緑が既に深くなっているのか、まだなのか見てきて私に教えてくれないか。(緑が濃くなっていれば、私も川辺に足を伸ばしたいと思う。)

 

「早春呈水部張十八員外 二首」は、唐代の詩人韓愈(768-824年)の七言絶句二首です。

この詩は、823年、詩人が56歳の春に水部の張籍(766-830年)に送ったものです。

 

韓愈は難解な詩風で知られており、平易で通俗的な詩風を特徴とする白居易に対抗する中唐詩壇の一派を形成します。それまであまり評価されていなかった張籍や賈島などを高く評価し「韓門の弟子」と称する詩人たちを輩出しました。

 

この詩は韓愈の最晩年の作であり、死の前年の春を詠ったものです。

長安の早春の風景は、芽吹きを待つ生命の力が最も蓄えられた季節として、詩人の心眼に最も美しい季節として映っていたのでしょう。

詩中にでてくる張籍は、韓愈の門人であり弟子ですが、韓愈とは同年代です。その長年の友に語りかける言葉が、微笑ましくもあり共感を誘います。

 

参考:《唐诗鉴赏辞典 新一版》2013年,上海辞书出版社,879-880页

https://so.gushiwen.org/shiwenv_d9b8b714a113.aspx

 

 

対面の木木の息吹に咽せる朝生命の根の緊まる音聞く  cogito

 

 

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