張旭の詩「山中留客」に思う

     山中留客 

         張旭

山光物態弄春暉,莫為輕陰便擬歸。

縱使晴明無雨色,入雲深處亦沾衣。

 

山は春の光に包まれて美しく輝いています。多少雲がかかったからといって帰ってしまおうなどと思わないでください。

晴れて雨の気配がなかったとしても、山中の雲の深きところに入れば、衣服が濡れてしまうかもしれませんよ。

 

「山中留客」(「山行留客」とする出典もある)は、唐代中期の書家張旭の七言絶句。

この詩は、春の山の美しさを描きつつ、客人(友人)が帰ろうとするのを留まるように勧めたものです。

作者の春の山の素晴らしい景色に対する強い思い入れと、それを長く客人とともに楽しんでいたいという願いが込められています。

作者は、落ち着いて春の山の美しさを楽しもうとせず、わずかな雲を見つけて帰ろうとする客人に対して、晴れて雨が降りそうになくとも、帰る途中で雲の奥深くに入れば衣服が濡れてしまいますよと諫め、山の最も美しい季節は短いので、しっかりと堪能してほしいという思いから客人を引き留めます。

 

この詩には、作者の客人に対する思いだけでなく、私たちへのメッセージが込められているようです。

世界は素晴らしく、天地の万物は美しい姿を私たちに見せてくれています。

少しの挫折で自信をなくしてはいけません。見えないところにも様々な困難はつきもので、辛く悲しい思いをすることは多いでしょう。だからこそ、少しの挫折に屈せず、この美しい世界を十分に生きて、味わってほしいという作者のメッセージを受け取ることもできそうです。

 

張旭は書家として知られ、草書を極めるとともに、従来規範とされて来た王羲之と王献之、いわゆる「二王」の書風に真正面から異を唱え、書道界に改革の旋風を巻き起こすきっかけとなった人物です。

詳しい経歴はわかっていませんが、常熟県(現在の江蘇省蘇州市常熟市)で官位を得た後、長安に上京、官吏として勤めながら顔真卿杜甫賀知章らと交わり書家として活動していきました。

型破りな大酒豪として知られ、酒を飲んでは筆を振るいました。その書風は「狂草」と呼ばれ、現在に至るまで、多くの書道家や愛好家に支持されています。

 

参考:《唐诗鉴赏辞典 新一版》2013年,上海辞书出版社,415-417页

https://so.gushiwen.org/shiwenv_9c76a1975daa.aspx

 

 

暁に雨音の消え鳥の啼く汚染度ゼロの空気吸ひ込み   cogito

 

 

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