白居易の詩「南湖早春」に思う

                  南湖早春

          白居易

風回雲斷雨初晴,返照湖邊暖複明。

亂點碎紅山杏發,平鋪新綠水蘋生。

翅低白雁飛仍重,舌澀黃鸝語未成。

不道江南春不好,年年衰病減心情。

 

春風が吹いて雲は消え、雨も上がって青空が広がり、陽光が湖面を照らして暖かく、かつ明るくなった。

山野の至る所に杏の花が咲き乱れて紅を晒しており、浮き草の新緑が水面を敷き詰めている。

白い雁は、雨に濡れた羽が乾ききらず、重そうに低空を飛んでおり、黄色い鶯は、舌がよくまわらず、上手に囀ることができないでいる。

江南の春が素晴らしくないとは言わないが、年々身体が衰え病も多くなった私は、春を楽しむ心情も薄らいでしまった。

 

「南湖早春」は、唐代の詩人白居易 (772-846年)の七言律詩。

この詩は、南湖の早春の情景を詠んだものです。

 

南湖は、鄱阳湖(古くは彭蠡湖とも呼ばれる)のことで、江西省の北部に位置し、中国最大の淡水湖です。面積は3960平方キロメートルに及び、観光の名所(国家5A観光地)になっています。

この詩は、元和12(817)年に白居易が江州司馬に左遷されていたときに詠んだものです。

早春の美しさも詠まれていますが、詩人の陰鬱な心情が濃く反映されています。

 

詩人は、早春の美しさを楽しめなくなっている理由として、自らの身体の衰えをあげていますが、詩人が春を満喫できない原因は多かったようです。

当時、国勢は衰退の兆候をみせていましたが、江州司馬左遷後は、国を救おうにもどうすることができない無力感を感じていました。

春色が美しければ美しいほど、国が乱れてこの自然が荒れ果てていくかも知れないという思いが募ったのではないでしょうか。国の将来を案じて春色を味わえない詩人の心情を汲み取ることができます。

 

詩全体を通して、色彩や音などの描写から早春の息吹が感じられるとともに、詩人の情感の表出が胸に迫ってくる詩といえそうです。

 

参考:https://so.gushiwen.org/shiwenv_85b1257a3107.aspx

 

 

春の日に一際映ゆる雪柳東北は今吹雪きゐるらし   cogito

 

 

f:id:COGITO:20210424071308j:plain