杜審言の詩「和晉陵陸丞早春遊望」に思う

和晉陵陸丞早春遊望   

         晋陵の陸丞の早春遊望に和す

 杜審言

獨有宦遊人, 独り宦遊に人有り

偏驚物候新。 偏えに物候の新たなるを驚く

雲霞出海曙, 雲霞 海を出でて曙け

梅柳渡江春。 梅柳 江を度って春なり

淑氣催黃鳥, 淑気 黄鳥を催し

晴光轉綠蘋。 晴光 緑蘋を転ず

忽聞歌古調, 忽ち古調を歌うを聞き

歸思欲沾巾。 帰思 巾を沾さんと欲す

 

故郷を離れ、ほかの地方で官職に就くものは、万物が気候に応じて変化していくことに驚きを感じるものです。

春の雲霞が大海原に立ち上り、夜が明けていきます。

梅の花や柳の新芽が長江を渡って次第に北へと移り、春が巡っていきます。

麗らかな春の和気は、鶯が囀るのを促し、明るい日の光は、浮き草を揺さぶります。

あなたの古風な調べの詩を聞き、急に帰郷の思いが募り、袖が涙で濡れてしまいそうです。

 

 

「和晉陵陸丞早春遊望」は、唐代の詩人杜審言(645?-708年)の五言律詩。

この詩は、晉陵(現在の江蘇省常州市武進県)の友人陸丞の詩「早春遊望」に唱和して詠んだものです。

 

杜審言は初唐の詩人。襄陽(湖北省)の人で詩聖杜甫の祖父にあたります。

唐代「近体詩」の基礎を作った一人であり、李嶠、崔融、蘇味道とともに「文章四友」とも呼ばれる。

 

杜審言は、咸亨元(670)年、進士に及第し、隰城県尉(現在の山西省呂梁市の役人)となります。

この詩は、永昌元(689)年前後、詩人が江陽県(現在の江蘇省江陽市)在任中に、同郷の友人とともに遊んだ際に唱和したものと言われています。

友人陸丞とその詩「早春遊望」の詳細はわかっていません。

 

杜審言は、地方官僚として約20年を過ごし、詩人としての名はすでに高まっていましたが、洛陽の都から遠く離れた地方官としての任務には満足できず、当時も心情はさえないものでした。

江南の早春に友人とともに遊び、詩を唱和しますが、麗らかな春の風景を心からは楽しめず、故郷へ、そして都へ戻りたいという思いを吐露するのです。

 

故郷を離れ異郷で暮らすものは、自然の移ろいに敏感になるという詩人の感性に、私は大きく共鳴しました。

 

中国上海の大学キャンパスは、春の訪れとともに梅、桃、桜と次々に花が咲きました。

今、人工湖の周りは黄菖蒲が鮮やかに彩っています。

 

参考:《唐诗鉴赏辞典 新一版》2013年,上海辞书出版社,18-19页

https://so.gushiwen.org/shiwenv_53c580f21ba6.aspx

 

 

一枝の連翹の黄に明かり取り師の居ぬ茶室稽古は進む   cogito

 

 

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