於良史の詩「春山夜月」に思う

           春山夜月

    於良史 〔唐代〕

春山多勝事,賞玩夜忘歸。

掬水月在手,弄花香滿衣。

興來無遠近,欲去惜芳菲。

南望鳴鍾處,樓台深翠微。

 

春の山に入ると多くの美しいものに出会い、それらを賞翫していると帰るのを忘れてしまう。

思わず水を掬うと掌に朧月が映り、咲き誇る花に触れるとその香りが衣に充ち満ちる。

心が浮かれるままに、帰途の遠くなるのを気にせずに、草花が美しく咲き匂う様を愛でて何処までもいきたい。

鐘の音が鳴る南方を望むと、鐘楼が芽吹いた草木に照り映えている。

 

「春山夜月」は、唐代の詩人於良史の五言律詩。

この詩は、春の山の素晴らしさを詠ったものです。

 

春の山中で一つ一つの景物を愛でながら、自然と一体となって、その素晴らしさを堪能する詩人の姿が浮かんできます。

 

この詩の二・三句「掬水月在手,弄花香滿衣。」(水を掬すれば月、手に在り、花を弄すれば香、衣に満つ)は、日本でもよく知られた禅語で、茶席の掛けものとしてもよく見られます。

 

雑事に忙殺される中でも、時に自然に触れ、自然の一部となって森羅万象を感じると心身が浄化され、生きる力を得ることができます。

 

人は自然とともにしか生きられないのかもしれません。

自然に癒やされ、清められながら、前を向いて歩いていきたいと思います。

 

参考:《唐诗鉴赏辞典 新一版》2013年,上海辞书出版社,731-732页

https://so.gushiwen.org/shiwenv_3320bdf7dbb5.aspx

 

忘れ潮に映る子供の四つの眼宇宙の謎に挑むがごとし   cogito

 

 

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