武元衡の詩「春興」に思う
春興
武元衡 〔唐代〕
楊柳陰陰細雨晴,殘花落盡見流鶯。
春風一夜吹鄉夢,又逐春風到洛城。
春雨が晴れ、枝葉を鬱蒼と茂らせた柳は、雨に洗われて緑をさらに濃くし、残っていた花は落ち尽くし、鶯が春の過ぎ行くのを見て啼いている。
心地良い春風が吹き、私を帰郷の夢に誘う。私は春風にのって洛陽まで行ってしまうのだ。
「春興」は、唐代の詩人武元衡(758-815年)の七言絶句。
この詩は、春の景物とそれに触発された情感を詠ったものです。
雨が上がり、雨に洗われた翠緑の柳の枝葉は、鬱蒼と生い茂っています。
春の花々は、雨ですっかり落ちてしまっています。
鶯は、柳の枝を行ったり来たりしながら、春が行き過ぎてしまうのを見て啼いています。まるで詩人の心を察して、一緒に嘆いているかのようです。
すると春風が吹いて、詩人は望郷の念に駆られます。春風に乗って暫し故郷の洛陽に誘われるのです。
洛陽の春もここと同じように過ぎ去って行こうとしているのでしょうか。
この詩は、春の風物と故郷への思慕、そして帰郷の夢が一体となって描かれ、美しい余韻を残します。
武元衡は、河南府緱氏県(現在の河南省洛陽市偃師区の南)の人。
建中4(783)年に進士となり、徳宗に才能を認められ、比部員外郎・右司郎中・御史中丞を歴任します。その後、憲宗の元和2(807)年には門下侍郎・同中書門下平章事(宰相)にまで至ります。しかし、淮南西道節度使の呉元済が反乱を起こした時、憲宗から全てを委任されて討伐を画策し、呉元済派の朝臣の放った刺客に暗殺されます。
この詩がいつ詠まれたのかは、わかっていません。
参考:《唐诗鉴赏辞典 新一版》2013年,上海辞书出版社,803-805页
https://so.gushiwen.org/shiwenv_47f9ab381687.aspx
ベランダに鶯の声愛づる朝 里の縁側思ひ出しをり cogito