李白の詩「白田馬上聞鶯」に思う

       白田馬上聞鶯

              李白 〔唐代〕

黄鹂啄紫椹,五月鳴桑枝。

我行不記日,誤作陽春時。

蚕老客未帰,白田已缫絲。

 駆馬又前去,捫心空自悲。

 

黄鶯(コウライウグイス)は、紫色の桑の実を啄み、5月になり桑の木の枝で啼いている。

私はすっかり今日がいつなのかわからなくなってしまい、今はまだ陽春だとばかり思っていた。

蚕はすでに成長したが、客はいまだに帰って来ない。白田の地方では蚕の繭から絹糸を取り出しはじめている。

馬を走らせ前に向かって進んではいるが、胸に手をあてると心は空しく自ずと悲しみが広がる。

 

「白田馬上聞鶯」は、唐代の詩人李白(701-762年)の五言律詩。

この詩は、初夏の風景に自分の心情を重ねて詠んだものです。

 

5月になり、黄鶯は桑の木の枝で実を啄んでは啼いています。詩人はまだ正月だと思っていたのに、すでに季節は初夏を迎えていることに気付きます。

桑の葉を食んでいた蚕は生長し、繭を作り、ここ白田の地方では、すでに繭から絹糸を取り出す作業が始まっています。

自然の生き物は確実に時を刻みながら成長していきます。そこに暮らす人々も自然とともに生きながら収穫を得て生活しています。

しかし、詩人は、馬を前に走らせてはいますが、期待していた理想の生活はなかなか訪れず、日々だけが空しく過ぎていきます。その自分の現状を改めて振り返り、深い悲しみを感じるのです。

 

李白は、壮大な政治的理想をもった詩人でした。しかし、現実は理想とはかけ離れ、出世の道も思うようには進めず、放浪の生活を続けます。この詩は、李白が白田(現在の江蘇省宝応縣白田渡)を放浪していた際に作ったものと思われます。

 

参考:https://so.gushiwen.org/shiwenv_05fab4d9e3fc.aspx

 

掻き集め再構成を試みむ果たして埋まらぬ心のパズル  cogito

 

 

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