元稹の詩「行宮」に思う

行宮  (唐)元稹

寥落古行宮, 寥落たり 古の行宮

宮花寂寞紅。 宮花 寂寞として紅なり
白頭宮女在, 白頭の宮女在り

閒坐說玄宗。 閒坐して玄宗を説く     

 

さびれた故の離宮、そこにはひっそりと紅の花が咲いている。白髪の宮女が静かに坐して、ありし日の玄宗皇帝を語る。

 

「行宮」は、唐代の詩人元稹(779 - 831)の五言絶句。

わずか20字の中に、場所・時間・人物・動作が短く簡潔に描写され、読む者をその場に引きこんでいきます。

離宮に変わらずに咲く紅の花と老いた宮女の白髪の対比が、悲哀の情をそそります。

詩人の栄枯盛衰に対する深い思いが込められ、時代を超えた味わいがあります。

 

かつて豪華な離宮で宮仕えをしていた宮女。その宮女も白髪となり、今はなすこともなく、玄宗皇帝の華やかなりし時を語る。この詩から何を感じるかは読者次第、老宮女の姿をどう読むかも、読者にゆだねられているといえましょう。白居易も「上陽白髪人」で老いた宮女を詠っています。

 

この詩は、平家物語の冒頭にある「驕れる者久しからず ただ春の夜の夢の如し」を想起させもします。

 

諸行無常、万物は変化し続け、生きているものは必ず消滅する。

老いた宮女には、若く美しき日に華やかな宮仕えをし、今もなお語るべき在りし日があります。それは幸いなこととはいえないでしょうか。在りし日を静かに座して語る姿に、全てを受け入れ、平安を得た心の内を見ることもできるでしょう。

 

諸行無常、この法を心に刻み、「いま、ここ」を大切に生きていきたいと改めて思います。

 

  紅梅に一人笑顔で寄り添ひて写したる画に白髪のあり  cogito

 

 

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