柳宋元の詩「江雪」に思う

江雪  柳宋元

千山鳥飛絶, 千山 鳥飛び絶え,
萬徑人蹤滅。 萬徑 人蹤 滅す。
孤舟簑笠翁, 孤舟 簑笠の翁,
獨釣寒江雪。 獨り寒江の雪に釣す。

 

山々に鳥の影絶え、径々には人の蹤もない。1艘の小舟に蓑笠の漁翁のひとり、雪の河面に釣りする姿のみである。

 

この詩は、今まで何度も読んだはずであり、おそらく書の作品にもしたことがあると思います。しかし、今回、初めてこの詩に出会った感がありました。

 

「江雪」は、唐代の詩人柳宋元が政変に破れ、左遷された永州で詠んだ五言絶句です。

その生活は、軟禁状態に近いものであったといいます。

 

詩人は、わずか20字の漢字を使い、一幅の広大で閑寂な世界を描き出しています。その雪に覆われた世界に、一人寒冷な河面に釣り糸を垂れる年老いた漁夫、その清らかで気高い姿に詩人は自分の身を重ねたのでしょう。衰退へと向かう唐代社会に創り出された詩人の理想の境地ともいえましょう。

 

いかなる境涯にあっても、精神は自由です。精神を豊かに自由に遊ばせることができるのです。この詩はそう教えてくれているようです。

 

寒冷で幽寂な世界に一人釣り糸をたれる漁夫、その中に流れる血は暖かく、そこに希望をも感じさせてくれます。

 

漢詩の世界は深淵です。その奥深さを少しずつ味わえるようになってきた気がします。中国での生活は、もうすぐ10年目を迎えます。その地に住んでみないとわからないことがある、経験をしないとわからないことがある、生きてみないとわからないことがある。

いま、ここにあることが、ありがたい。合掌。

 

 

 江雪の翁は何を釣りたるや 隔離のとけぬ深更にとふ  cogito

 

 

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