孟浩然の詩「送杜十四之江南」に思う

  送杜十四之江南  杜晃進士の東呉に之くを送る

      孟浩然

  荆吳相接水爲鄉, 荊呉相接して水を郷と為すも

  君去春江正淼茫。 君去る春江 正に淼茫たり
  日暮孤舟何處泊, 日暮 孤舟 何れの処にか泊する

  天涯一望斷人腸。 天涯一望 人の腸を断つ

 

荊と呉の地は、相接していて、水郷となっている。あなたが行く春の長江は、水が果てしなく広々と拡がっている。日が暮れると、孤独に行く小舟はどこに泊ることになるのだろうか。空の果てまでを見渡すと、断腸の思いがする。

 

「送杜十四之江南」は、唐代の詩人孟浩然(689-740)の七言絶句。

孟浩然が杜晃の東呉への旅立ちを見送った送別詩です。

前に、李白(701-762)が黄鶴楼で孟浩然の旅立ちを見送った詩「黃鶴樓送孟浩然之廣陵」を読みました。同じ送別詩でもずいぶんと雰囲気が異なります。

 

孟浩然は、襄陽(現在の湖北省)の人。

若い頃、科挙に及第できず、各地を放浪した後、任侠で知られた鹿門山で隠遁生活を送ります。

40歳の時に長安に出て、詩人王維の推薦で玄宗に拝謁しますが、奉呈した詩が玄宗の不興をかい、仕官できずに各地を歴訪します。

自然の中に人生と超俗を詠みこんだ自然詩で名高く、王維とともに「王孟」と並び称されます。 

王維・李白・張九齢らと親交を結びました。

李白が孟浩然に贈った詩「贈孟浩然」では、李白の孟浩然に対する崇敬の情が表白されています。

 

この「送杜十四之江南」で詠まれている杜晃と孟浩然の関係については定かではありません。

この詩の題を「送杜晃進士之東呉」とする出典もあり、杜晃が進士として東呉へ発つなど旅立ちの状況についても諸説あり、詳細は不明です。

ただ、旅立ちに際し、果てしなく広がる長江と孤独な小舟を対比しながら、その旅で遭遇するであろう困難を想像し、舟が停泊する場所にまで言及して断腸の思いであると表現しており、旅立つ人に対する愛惜と惜別の情の深さを感じます。

 

 

漢詩の中には多くの送別詩があります。

現代のように飛行機や鉄道で高速移動できる時代とは異なり、「送別」には二度と会えないかもしれないという深い悲しみがつきまとったことでしょう。

SNSで簡単に消息を伝え合える時代とは異なり、相手の前途を案じる思いは尽きなかったことでしょう。

便利な生活が当たり前になった今、漢詩は人と別れることの意味を改めて考えさせてくれます。

「一期一会」、人との出会いや別れを大事に刻みながら、生きたいと思います。

 

  

 バイバイと母の振る手は処女のごと真白き床に吸ひ込まれたり   cogito

 

 

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